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東京高等裁判所 昭和30年(ラ)341号 決定 1955年10月29日

抗告人 棚田好実

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人は「原決定を取り消す。相手方(担保取消決定申請人)の担保取消決定申請はこれを却下する。」との裁判を求め、その理由として別紙抗告理由書記載のとおり主張した。

よつて按ずるに、

本件記録に徴すると、本件執行停止命令の申請人である有限会社金田分店は原裁判所に対して本件抗告人を被申請人として昭和三十年二月十八日原裁判所に「被申請人が申請外櫛原修に対してなした長野地方裁判所飯田支部昭和三十年(ラ)第六号競落不動産引渡命令申請事件の引渡命令正本に基く本件物件に対する執行は本案判決するまでこれを停止する」との裁判を求め、その理由として、「被申請人は右正本に基いて執行吏に委任して申請人方に臨み、不動産引渡の執行を開始した。然しながら本件物件は昭和二十八年九月一日申請人会社が右櫛原修から賃借して引渡を受けたもので、借家法の適用のある賃貸借契約に基くものであつて、競落人に対抗できる賃借権であるから、申請人は被申請人に対して執行の目的物に対する異議の訴(同庁昭和三十年(ワ)第七号)を提起したので、右強制執行の停止を求める。」と主張した。そこで、原裁判所は申請人に保証として金五万円を供託せしめて「右強制執行は本案判決をなすに至るまでこれを停止する」旨の決定をしたこと並びに右の異議事件について、昭和三十年四月六日申請人敗訴の判決が言渡されたので、申請人は同月八日東京高等裁判所に控訴を申し立てるとともに、同裁判所に対して右強制執行停止命令を申請して同日同裁判所から金十万円の保証を立てることを条件に停止命令を受け翌九日長野地方法務局飯田支局に対して供託手続をした。従つて、第一次の担保については担保の事由が止んだからこれが取消を求めると申立てたそこで、原裁判所はさきに同庁が提供させた担保については担保の事由が止んだものと認めて同年六月八日担保取消決定をしたことが認められる。

ところで、原裁判所でなした停止命令は同裁判所において本案の判決を言渡すまで存続するに止まるものであることは該命令自体によつて明であり、原裁判所において本案判決の言渡があつたことは前記のとおりであるから、右停止命令の効力はもはや消滅したものといわなければならない。そして、本案事件の控訴審の停止命令において命じた担保は、第一審における執行停止によつて生じた損害、その他債権者に生ずることあるべき損害の全額を担保せしめる趣旨であつて、控訴審の停止命令が発せられた後に生じた損害のみに限局せらるべきものではないから、申立人が控訴審の命じた担保を供託したときは原審(東京地方裁判所)の停止命令に基いて供託した担保はその必要を見なくなつたものであつて、相手方の同意を要しないで申立人においてその還付を請求することができるものと解するのが相当である。(大審院昭和三年十一月十五日決定参照)抗告人の主張するところは、右の見解と異にする見地からの立論であつて、当裁判所は採用しない。

他に、原決定を違法とすべき瑕疵は認められない。

従つて、原決定は相当であつて、本件抗告は理由がない。

よつて、これを棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 浜田潔夫 仁井田秀穂 伊藤顕信)

(別紙)抗告理由書

相手方の担保の事由止みたりとの申請理由は、

前記昭和三〇年(ヲ)第一五号強制執行停止命令申請は、相手方より抗告人に対する同庁昭和三〇年(ワ)第七号執行に対する第三者異議訴訟事件の提起にもとずき、これをなしたるところ、右本案訴訟は昭和三十年四月六日相手方敗訴の言渡を受け更に控訴し(現在東京高等裁判所第三民事部事件として系属し、)これにもとずき同庁昭和三〇年(ウ)第二〇四号強制執行停止命令申請事件による強制執行停止命令を得るにつき、保証金十万円を供託したるにより、第一審判決迄の効力を有する前記昭和三〇年(ヲ)第一五号事件に関する本件担保は担保の事由止みたりとなすものであるけれども、

(1)  本件の本案訴訟たる執行に対する第三者異議訴訟事件は、第一審において相手方敗訴したるに拘らず更に控訴中にて未だ完結せず、従つて、第一審判決において相手方に対し負担を命ぜられたる訴訟費用につき抗告人に支払うべき債務額、又勝訴者たる抗告人に対し蒙らしめたる損害につきこれを賠償すべき債務額は、前記保証金により担保せらるべきところ、前記債務額は判決確定をまつて確定せられる故に、相手方の前記担保による担保義務は解消せられていない。よつて担保の事由止みたりとはなし得ない。

(2)  民事訴訟法第五四七条二項による強制執行停止決定は、当該受訴裁判所が、その決定をなすときより以後自庁の本案判決をなすに至る迄、執行を停止するにあることが明らかであるから、これが担保もその定められた期間を標準とし将来生ずることあるべき損害を対象として裁判所が自由なる裁量を以て定め、かくして各審級別にそれぞれ、原審より或いは少く、或いは多く独自の見解により担保額を決定し、これを供託せしめて停止決定を与えるのである。従つて各審級の担保は決して重複するものでなく、上級審において担保を供せしめたとの一事を以て原審の担保事由止みたりとして民訴法第一一五条第一項により債権者の同意等を要せず直に取消決定をなし得べきものとするのは誤である。もしそれ、上級審の担保は原審における損害迄も担保し、上級審の停止命令が発せられた後の損害のみに限局せられないから上級審で担保を供せしめた以上直ちに原審の担保はその事由止みたりとなすにおいては、各審級毎に決定をなすことを許しながら、その担保額のみについては、決定の範囲を逸脱し過去の原審の損害迄をも対象とするとなすものであつて、かゝる見解は理論上決定そのものにおいて矛盾を来しているものである。

右の通り即時抗告をなすものである。

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